判断能力が低下したときの検査として、よく使用される「長谷川式認知症検査(HDS-R)」について、この記事では詳しく解説します。長谷川式の検査結果をもとに、認知症の程度を判断されることが少なくなく、遺言などの相続、後見人制度にも使用されます。
長谷川式認知症検査(HDS-R)とは
長谷川式認知症検査(HDS-R)は、精神科医の長谷川和夫氏によって1974年に開発された認知症のスクリーニングを目的とした検査です。正式名称は「改訂長谷川式簡易知能評価スケール」です。高齢者の認知機能、特に記憶を中心とした認知機能の低下を早期に発見するために用いられます。
長谷川式認知症検査の目的
長谷川式認知症検査の主な目的は以下のとおりです。
- 認知症の早期発見: 物忘れなどの症状が、加齢によるものか認知症によるものかを区別し、早期発見につなげる。
- 認知機能の評価: 記憶力、見当識、計算力など、認知機能の低下の程度を把握する。
- 認知症のスクリーニング: 大勢の中から認知症の疑いがある人を選び出す。
長谷川式認知症検査は、あくまでもスクリーニング検査であり、これだけで認知症の診断が確定するわけではありません。認知機能の低下が疑われた場合は、医師による問診、画像検査(CT、MRIなど)、血液検査など、より詳しい検査が必要となります。
長谷川式認知症検査の検査内容
HDS-Rは、以下の9つの質問項目で構成されています。所要時間は5〜10分程度です。
- 年齢: 年齢を尋ねます。
- 年月日: 今日が何年何月何日かを尋ねます。
- 場所: 今いる場所(病院名、施設名など)を尋ねます。
- 3つの言葉の即時記憶: 「桜」「猫」「電車」など、3つの言葉を提示し、すぐに復唱してもらいます。
- 計算: 「100から7を順番に引いてください」と指示します。
- 3つの言葉の遅延再生: 先ほど提示した3つの言葉を思い出してもらいます。
- 物の名前: 写真や絵を見せて、それが何かを尋ねます。
- 簡単な指示への従い: 「この紙を半分に折って、私の膝の上に置いてください」など、簡単な指示に従ってもらいます。
- 言葉の復唱: 簡単な言葉を復唱してもらいます。
評価と点数
各質問項目には配点があり、合計30点満点です。一般的に、20点以下の場合、認知症の疑いがあるとされます。ただし、点数だけで判断するのではなく、年齢や教育歴なども考慮されます。
- 30点満点: 認知機能は正常範囲内と考えられます。
- 21〜29点: 軽度の認知機能低下の可能性があります。
- 20点以下: 認知症の疑いが高いとされます。
他の有名な検査
MMSE(Mini-Mental State Examination)は、長谷川式認知症検査と並んでよく用いられる認知機能検査です。両者の違いは以下のとおりです。
- 検査項目: MMSEは、見当識、記憶力、計算力、言語能力、図形描画など、より広範囲の認知機能を評価します。長谷川式は、特に記憶力に重点を置いています。
- 所要時間: MMSEの方がやや時間がかかります(15分程度)。
- 日本での普及度: 日本では長谷川式の方が広く普及しています。
どちらの検査を用いるかは、医療機関や医師の判断によります。
長谷川式認知症検査を受ける際の注意点
- 体調の良い時に受ける: 体調が悪いと、本来の能力を発揮できない可能性があります。
- リラックスして受ける: 緊張すると、記憶力や集中力が低下する可能性があります。
- 検査結果はあくまで参考: HDS-Rの結果だけで自己判断せず、必ず医師の診断を受けてください。
- 検査を行う人の熟練度: 検査を行う人の熟練度によって結果に影響が出る可能性もあります。
認知症検査の限界
認知症検査は、認知症の早期発見に役立つ有用な検査です。スクリーニング検査ですが、以下のような限界もあります。
- 教育歴の影響: 教育歴が低い人は、点数が低く出る傾向があります。
- 精神疾患の影響: うつ病などの精神疾患がある場合、認知機能が低下しているように見えることがあります。
- 文化や言語の影響: 文化や言語の違いによって、検査結果に影響が出る可能性があります。
認知機能の低下が気になる場合は、早めに医療機関を受診し、適切な検査と診断を受けることが大切です。早期発見・早期治療が、認知症の進行を遅らせ、より良い生活を送るために重要となります。もし、ご自身やご家族のことで心配なことがあれば、ためらわずに専門機関に相談してください。