高齢化社会の進展に伴い、認知症患者の増加が社会的な課題となっています。
認知症になると、ご本人の財産管理能力が低下し、預貯金の引き出しや不動産の売却などが困難になる場合があります。そのような状況に備え、近年注目されているのが「家族信託」です。
家族信託は、認知症対策として有効な手段の一つですが、家族信託は複雑な制度であり、専門家のサポートが不可欠ですので、ご自身の状況や希望に合わせて、専門家と相談しながら、家族信託の活用を検討することをおすすめします。
【認知症】と診断されることは、ご本人やご家族にとって大きな不安をもたらすものです。認知機能の低下だけでなく、様々なリスクが伴うことを理解し、適切な対策を講じることが重要です。
認知症の影響①(日常生活全般)
- 日常生活の困難:
- 買い物、料理、掃除などが難しくなる
- 道に迷ったり、約束を忘れたりする
- 薬やお金の管理が難しくなる
- 事故のリスク:
- 転倒や交通事故に遭いやすくなる
- 詐欺や悪徳商法の被害に遭いやすくなる
- 家族の負担:
- 介護が必要になり、家族の負担が増える
- 介護疲れによるトラブルも
- 社会的な孤立:
- 周囲との交流が減り、孤独を感じやすくなる
認知症の影響②(財産管理・法的手続き)
- 財産管理
- お金の管理が難しくなる
- 悪徳業者に騙されるリスク
- 法的な契約や手続き
- 重要な契約ができなくなる場合がある
- 成年後見制度の利用が必要になることも
もっと具体的に書くと、
・預金が凍結される
・生活費などを、自分の口座から引き出せない
・医療費、入院費、通院費を支払えない
・介護サービスの費用を支払えない
・介護施設の入居費用を支払えない
・自宅の売却ができない など
ご家族にとっては、各種費用を立て替える必要が出てきます。
ご家族が立て替える余裕がなければ、十分な介護や医療を受けられなくなる恐れがあります。
これらのリスクに事前に備えられるのが家族信託になります。
家族信託とは
家族信託とは、ご自身の財産を信頼できる家族(受託者)に託し、ご自身の希望する目的(信託目的)に従って、財産の管理・運用・処分を任せる仕組みです。
認知症などで判断能力が低下した場合でも、受託者がご本人の代わりに財産を管理・運用できるため、財産の凍結を防ぎ、ご本人の生活や医療費などに必要な資金を確保することができます。
家族信託のメリット
家族信託は、認知症対策として以下のようなメリットがあります。
- 財産凍結の防止: 認知症になると、預貯金が凍結され、引き出しが困難になる場合があります。家族信託を利用すれば、受託者がご本人の代わりに財産を管理・運用できるため、財産の凍結を防ぎ、必要な資金を確保できます。
- 柔軟な財産管理: 家族信託では、信託契約の内容を自由に決めることができます。例えば、ご本人の生活費や医療費の支払い、不動産の管理・売却、相続対策など、ご自身の希望に合わせた財産管理が可能です。
- 成年後見制度との比較: 成年後見制度は、裁判所が選任した成年後見人がご本人の財産を管理する制度ですが、家族信託は、ご自身が信頼できる家族を受託者に選ぶことができます。また、家族信託は、成年後見制度よりも柔軟な財産管理が可能です。
- 二次相続以降の指定: 遺言では一次相続(ご本人から相続人)までしか指定できませんが、家族信託では二次相続(相続人から次の世代)以降の財産の承継先を指定することも可能です。
家族信託のデメリット
一方で、家族信託には以下のようなデメリットも存在します。
- 信託契約の複雑さ: 家族信託は、信託契約の内容を専門家と相談しながら決める必要があります。そのため、契約内容が複雑になりやすく、専門家への相談費用もかかる場合があります。
- 受託者の負担: 受託者は、財産の管理・運用・処分に関する責任を負います。そのため、受託者の負担が大きくなる可能性があります。
- 税務上の注意点: 家族信託は、税務上の取り扱いが複雑になる場合があります。専門家に相談し、適切な税務対策を行う必要があります。
家族信託の手続き
家族信託の手続きは、以下の流れで進みます。
- 専門家への相談: 行政書士などの専門家に相談し、家族信託の目的や内容を検討します。
- 信託契約書の作成: 専門家と相談しながら、信託契約書を作成します。
- 公証役場での公正証書作成: 作成した信託契約書を公証役場で公正証書にします。
- 信託財産の移転: ご本人の財産を受託者に移転します。
- 信託の開始: 信託契約に基づき、受託者が財産の管理・運用を開始します。