身寄りがない方にとって、人生の終末期や病気、または認知症などに直面したとき、誰に面倒をしてもらうのかという問題は非常に重要になります。
身寄りがない方にはご家族やご親族がいないため、法律的な保護や援助を受けるためには後見人制度(任意後見制度)を利用することが極めて有効です。
後見人制度は、法律的な判断能力が十分でない人の生活や財産を管理する役割を担います。この制度は、身寄りがない方が安心して暮らせるための重要な支えとなります。
本記事では、身寄りのない方が後見人制度を利用する際の基本的な情報や、後見人の役割、選び方、手続きなどについて詳しく解説します。
後見人制度とは
後見人制度は、法律的な判断能力が十分でない方(高齢者、障害者、認知症患者など)に対して、後見人を立ててその人の生活や財産の管理をする制度です。
後見人は、本人が意思決定を行うことができない場合に代わりにその役割を果たし、本人の利益を最優先に考えて行動します。後見人の選任には、家庭裁判所の判断が必要となります。
後見人には、次の3種類があります。
- 成年後見人
成年後見人は、認知症や精神的な障害などで判断能力が不十分な成人に対して、家庭裁判所が選任します。成年後見人は、本人の財産や生活全般を管理し、契約を代理したり、重要な決定を本人に代わって行うことができます。 - 保佐人
保佐人は、判断能力が著しく不十分でないが、一部の重要な決定に対して補助が必要な成人に対して選任されます。保佐人の役割は、成年後見人に比べて軽度であり、主に重要な契約や財産の処分に関して助言や同意を求める形になります。 - 補助人
補助人は、判断能力が不十分な成人であり、生活全般に関して軽度の支援が必要な場合に選任されます。補助人の役割は、保佐人よりもさらに軽度であり、特定の行動に対する助言や支援を行います。
身寄りのない方が後見人制度を利用する場合、一般的には「成年後見人」の選任が行われることが多いです。
後見人の役割と責任
後見人の役割は、本人の利益を最優先にしてその生活を支えることです。具体的には、以下のようなことが後見人の主な役割になります。
財産管理
後見人は、本人の財産の管理を行います。これには、銀行口座の管理、年金の受け取り、財産の売却、支払いの手続きなどが含まれます。後見人は本人の財産が無駄に使われたり、不正に管理されたりしないように慎重に行動しなければなりません。
生活支援
後見人は、本人が自立して生活できるように支援します。例えば、本人が入院や介護が必要な場合、病院や介護施設との調整、必要な手続きのサポートを行います。また、日常生活に必要な物品を手配したり、医療・介護サービスを利用する手続きも後見人の責任となります。
法的手続き
後見人は、法律的な手続きも代わりに行います。例えば、不動産の売買契約や相続手続き、社会保険や税金に関する手続きなどがこれに該当します。後見人は、本人が適切に法的手続きを行うことができない場合に、代理人として手続きを行います。
意思決定
後見人は、本人の意思を尊重し、本人が判断能力を失った場合でも、可能な限り本人の意志を反映させるように努めます。もし本人が意思を示せない場合には、後見人が本人にとって最善と思われる選択を行います。
後見人には、報酬を受け取ることができますが、報酬額は家庭裁判所で決定され、決して過剰な報酬を得ることはできません。また、後見人は公正かつ透明な管理を行わなければならないため、業務内容に関する報告を家庭裁判所に提出することが義務付けられています。
後見人の選び方
身寄りがない方が後見人を選任する場合、信頼できる後見人を選ぶことが最も重要です。
任意後見人の場合には、ご自身が希望する後見人を選任することが可能です。一方で、法定後見人の場合は、家庭裁判所が行います。後見人候補として推薦できる人物を申請することも可能ですが、専門家(行政書士、社会福祉士など)を後見人として選任されることが一般的です。
信頼できる身内がいない場合
身寄りがない方の場合、信頼できる親族が後見人になることは難しい場合が多いです。
その場合、後見人を選任する際には、次のような選択肢があります。
- 専門職後見人
弁護士・司法書士・行政書士など、専門的な知識を持つ人物が後見人として選任されることが多いです。専門職後見人は、法律や財産管理について深い理解があり、安心して任せることができます。 - 社会福祉法人などの団体
一部の社会福祉法人や団体が後見人を務めることもあります。
後見人候補者の選定
任意後見の場合は、ご自身の意思で後見人を決めることができます。一方で法定後見の場合は、家庭裁判所は、後見人候補者を選定する際に以下の基準を考慮します。
- 候補者の能力
後見人として必要な知識と能力を持っていることが求められます。特に財産管理や法律的な手続きに精通していることが重要です。 - 候補者の信頼性
後見人として誠実に業務を行えるかどうか、過去に不正を行っていないかなどがチェックされます。 - 候補者の倫理観
後見人は、本人の利益を最優先に考える必要があります。そのため、倫理観や公平性が重要視されます。
任意後見と法定後見の主な違い
項目 | 任意後見 | 法定後見 |
---|---|---|
選任方法 | 本人が自分で後見人を選任し、契約を結ぶ | 家庭裁判所が後見人を選任 |
契約時期 | 判断能力が低下する前に契約 | 判断能力が低下した後 |
契約内容 | 任意後見契約書を公正証書で作成 後見人を指定 | 家庭裁判所が後見人を指定し、その範囲を決定 |
後見人の選任権 | 本人が自由に後見人を選べる | 家庭裁判所が後見人を選任 本人の意向を尊重して選任される場合もある |
後見人の範囲 | 本人が指定した範囲内で後見人が活動 | 判断能力の低下状況に応じて、 家庭裁判所が後見人の権限範囲を決定 |
手続きの簡便さ | 比較的簡便 本人の意思を尊重しやすい | 手続きが複雑 家庭裁判所の審査が必要 |
後見人の報酬 | 任意で決定、契約内容に基づく | 家庭裁判所が決定 |
契約の変更 | 本人の意思に基づいて変更可能 | 裁判所の許可が必要で変更は難しい |
まとめ
身寄りのない方にとって、後見人制度は生活や財産管理を支えてくれる大切な制度です。後見人を選任することで、自分の権利が保護され、生活の支援を受けることができます。
特に身寄りがない場合、信頼できる専門職後見人や団体を選任することが求められます。そのため、意思判断能力があるときに、任意後見制度を利用することを検討することが極めて肝要です。任意後見制度について、行政書士などの専門家に相談することをお勧めします。