相続人がいない場合、残された財産はどうなるのか?という疑問は、
少子高齢化が進み、独居の高齢者が増えている現代社会において、多くの人々が抱いているのではないでしょうか。
日本では年間 約150万人の方が亡くなられ、そのうち約7,000人(約0.5%)の方の相続財産が国庫に帰属しています。
相続人がいない財産は、法律に基づいて国に帰属することになり、年間で約800億円もあります。最終的に、国は得られた財産を公益に役立てることになっていますが、具体的には明らかになっておりません。
相続人がいない場合の手続きは複雑で時間がかかるため、専門家のアドバイスを受けることが重要です。また、相続人がいない場合に備えて、生前対策をしておくことも大切です。遺言の作成や生前贈与など、様々な方法がありますので、ご自身の状況に合わせて検討してみてください。
相続人がいない財産の行方
相続人がいない場合、財産は以下のような流れで処理されます。
相続財産清算人の選任
まず、亡くなった方(被相続人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、利害関係人または検察官が相続財産清算人の選任を申し立てます。相続財産精算人は、裁判所が弁護士などの専門家の中から選任する人物で、相続財産の管理、相続人や債権者の捜索、そして最終的な財産の処分を行います。
※「相続財産清算人」は2023年まで「相続財産管理人」という名称が使われていました。
相続人や債権者の捜索
相続財産清算人は、戸籍謄本や住民票などをもとに調べたりして、相続人や債権者を捜します。
相続人や債権者が現れた場合は、相続財産分与の手続きが行われます。
特別縁故者への財産分与
相続人が見つからない場合でも、被相続人と特別の縁故があった「特別縁故者」が財産分与を申し立てることができます。特別縁故者とは、被相続人と生計を共にしていた人や、長期間にわたって被相続人の介護をしていた人などが挙げられます。
国庫への帰属
相続人や特別縁故者がいない場合、または特別縁故者への財産分与で残った財産は、最終的に国庫に帰属します。国庫に帰属する財産は、国有財産として扱われ、国が自由に処分することができます。
相続人がいない場合の手続き
相続人がいない場合の手続きは、一般の相続手続きと比べて複雑で時間がかかることが多いです。主な手続きは以下の通りです。
- 死亡届の提出
死亡を知った者は、遅滞なく死亡届を提出する必要があります。 - 相続財産管理人の選任申立て
相続財産管理人は、家庭裁判所に申し立てを行い、裁判所の許可を得て選任されます。 - 相続財産の調査
相続財産管理人は、被相続人の財産をすべて調査し、リストを作成します。 - 債権者の調査
相続財産管理人は、被相続人の債権者を調査し、債権額を確定します。 - 相続人や特別縁故者の捜索
相続財産管理人は、新聞広告や戸籍謄本などを利用して、相続人や特別縁故者を捜索します。 - 財産分与
相続人や特別縁故者がいる場合は、財産分与の手続きを行います。 - 国庫への帰属
相続人や特別縁故者がいない場合は、財産を国庫に帰属させる手続きを行います。
相続人がいない場合の注意点
相続人がいない場合、以下の点に注意する必要があります。
- 手続きが複雑で時間がかかる
相続人がいない場合の手続きは、一般の相続手続きと比べて複雑で、時間がかかることが多いです。 - 費用がかかる
相続財産管理人の報酬や、公告費用など、様々な費用がかかります。 - 財産が減ってしまう可能性がある
相続財産管理人の調査や保管期間中に、財産が減ってしまう可能性があります。
相続人がいない場合の対策
相続人がいない場合、生前に以下の対策をしておくことが大切です。エンディングノートを作成することで、自分の財産や葬儀についての希望などを記録しておくことができますが、とりわけ相続人がいない場合、遺言書を作成することは非常に重要です。遺言書によって、自分の意志を明確に示すことができ、財産の分配や処分方法を指定することができます。
遺言書
遺言書には、手書きの自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。特に公正証書遺言は、法的に認められた信頼性の高い形式であるため、おすすめです。遺言書において、特定の公益法人や大学やNPOを指定することで、故人の財産を社会貢献に役立てることができます。相続人がいない場合、財産を地域社会や公益法人に役立てる方法を検討することも重要であり、地域のニーズに応じた活用をすることも可能です。
相続に関する手続きや法律は複雑なため、法律の専門家に相談することが重要です。行政書士などの専門家は、相続手続きや財産管理のアドバイスを提供し、問題解決の手助けをしてくれますので、まずは無料相談等で相談することをお勧めします。
遺言書は一度作成したら終わりではなく、定期的に見直すことが重要です。新たに得た財産や、公益に役立てたい意向が変わった場合には、遺言書を更新する必要があります。
生前贈与
生前に自分の財産を整理し、財産内容をシンプルにするだけでなく、必要に応じて寄付や売却を行うことで、相続財産の種類や相続財産額を減少させることができます。
生前贈与とは、贈与者が生存中に他者に財産を無償で譲渡することを指し、生前の間に、贈与を行うことで、財産の管理や利用方法を自分で決定することができます。また生前贈与を行うことで、相続税の節税対策を行うこともできます。
生前に贈与する際は、贈与後も自分の生活に必要な資産を残しておくことが大切です。特に不動産や大きな資産は流動性が低いため、慎重に判断する必要があります。
信託
信託は、自分の財産を第三者に託し、その人に管理・処分を委ねる制度です。相続人がいない場合でも、信託を活用することで、自分の財産をどのように処分するか、誰に役立ててもらうかといった意思表示を明確にすることができます。
被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に申し立てる
(ご参考)相続財産清算人の申立てに必要な書類
(1) 申立書
①申立ての趣旨
被相続人の相続財産清算人を選任するとの審判を求めます。
②申立ての理由(例)
申立人は、被相続人の近所に居住する被相続人の遠縁にあたる者です。令和元年頃から、妻に先立たれ一人暮らしの被相続人の身の回りの世話、被相続人所有の財産を事実上管理してきました。
被相続人は,令和○年○月○日に死亡し,相続が開始しましたが,相続人のあることが明らかではなく,また,遺言の存否も不明なので,申立人が管理する財産を引き継ぐことができません。このような状況にありますので,申立ての趣旨のとおり審判を求めます。
(2) 標準的な申立添付書類
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の兄弟姉妹で死亡している方がいらっしゃる場合,その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 代襲者としてのおいめいで死亡している方がいらっしゃる場合,そのおい又はめいの死亡の記載がある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
- 財産を証する資料(不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産評価証明書),預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写し,残高証明書等)等)
- 利害関係人からの申立ての場合,利害関係を証する資料(戸籍謄本(全部事項証明書),金銭消費貸借契約書写し等)
- 相続財産清算人の候補者がある場合にはその住民票又は戸籍附票